謎解き 村上春樹(感想・考察・書評)    (ネタバレあり)

村上春樹作品の謎解き(感想・考察・書評)(ネタバレあり)

はじめに~「村上春樹はどこが面白いんだ?」

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村上春樹の小説を読んだんだが、全然面白くない。面白さを説明してくれ。」という質問をされることがたまにあります。例えば、こんな感じです。

 

恵比寿のオシャレでもない、バーでもない居酒屋で会社の同僚たちと飲んでいるとします。そこで職場の先輩が、私の趣味が読書であることをどこからか聞いて、こう聞いてきます。

先輩:(以下「先」:「○○さん、本読むんだってね?」

私:「ええ、まあ」

先:「最近どんな本読んでるの?」

私:「歴史物とか・・・。」(ここで、「村上春樹とか・・・」とは絶対に言ってはいけません。人によっては地雷の話題です。)

先:「例えば?」

私:「司馬遼太郎とかですかね。」(嘘つけ。最近司馬遼太郎読んだのは何年前だ。)

先:「最近売れている村上春樹の新作とか読んだ?」

私:「あー、読みました。」

先:「どうだった?」

私:「まあ、面白かったですね。」

先:「前に村上春樹読んだんだけどさー、全然面白くなかったんだよね。どこが面白いんだろう?」

私:「村上春樹ってくせがありますからねー。好き嫌いも分かれるし、面白くないなら無理して読むものでもないと思いますよ。」

先輩は、納得いかなさそうな顔で黙ってしまいます。

まあ、そうでしょうね。「くせがあって、好き嫌いも分かれる小説が何で人気があるんだ?」ってことが聞きたいんでしょうから。そんなの私にもわかりません。マーケティングで売れているなら、これからのビジネスマンは、ドラッカー読むより村上春樹に教えを請うた方がよさそうですね。

 

いや、「村上春樹はつまらない」という人に面白さを説明することほど不毛なことはないんですね。

だいたい村上春樹の作品が好きな人は、以下の3つのどれか、または全部が好きで読んでいる人が多いです。

1.主人公の「喪失感」や「孤独」に共感。

2.主人公の「自分の世界」を持ったライフスタイルが好き。

3.文体が好き。

 

 これに対して、村上春樹作品がつまらないと言う人は以下のような感じです。

1.主人公の「喪失感」や「孤独」には共感できない。これは自分の感じた孤独ではない。

2.主人公のオシャレンティーなライフスタイルに虫唾が走る。

3.メタファー・警句てんこもりの文体がうっとおしい。

 

つまり、好きな人が良いと言っている部分が、そのまま嫌いな人が「つまらない」と言っている部分なのです。これでは、水と油です。いくら好きな人が面白いところを説明しても、嫌いな人にとってはまさに、そここそが嫌いな部分なのです。説明されても納得できるわけがありません。

 

 結局村上春樹作品とは、だいたいの場合は好きな人は好き、嫌いな人は嫌いというもので、好き嫌いは説明されたら変わるものではありません。例えば、私はマヨネーズが大嫌いなのですが、そこへマヨネーズ好きな人がやってきて、マヨネーズがいかにおいしいかをこと細やかに説明してくれても、嫌いなのは変わりません。それと同じです。

 

 ただ、「上の1.~3.までは許せるんだが、結局村上春樹の小説を読んでも、謎が未解決のままで読んでもすっきりしない。そこが嫌だ。」という人も多いような気がします。

これは作者が作品について、読者が多義的な解釈ができるようにしているためで、そのためにファンタジー色を出したり、メタファーを多用したりしているのです。では、謎が全く解けないかというとそんなことはなく、ある程度は解けるようにはなっています。しかし、謎は難解で「多義的な解釈以前に、わけがわからないんだが」といって投げ出してしまうことの方が多いです。

 

これは、ちょっともったいないような気がするのですね。謎解きをすれば、それなりに作品を楽しめるけど、謎がよくわからないので楽しめない。それは作者が不親切で、謎がけっこう難しいためなんですが(しかも、作者的にはそれが読者サービスだと思っているふしがあるのがなんとも言えません)、難しいゲームには攻略サイトがあるように、難しい小説には攻略サイトが必要だと考えます。

 

ということで、本Blogでは、村上春樹作品の謎解き攻略サイトを目指します。もちろん、作者が正解を教えてくれるわけでもなく、そもそも多義的な解釈で一つの正解があるとは限りませんが、私の一面的な解釈を提示することによって、皆様の謎解き解釈の手がかりになるようになれば幸いです。また、「いくら多義的な解釈が許されているといっても、その解釈は明らかにおかしいだろ」という解釈がありましたら、容赦なくツッコミを入れていただければと思います。

 

 それでは、次回より村上春樹作品の謎解きを始めていきたいと思います。初回は、「ノルウェイの森」です。よろしくお願いします。