謎解き 村上春樹(感想・考察・書評)    (ネタバレあり)

村上春樹作品の謎解き(感想・考察・書評)(ネタバレあり)

「ノルウェイの森」書評②~冒頭のシーンの意味は?

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     激しくネタバレしています。

 

この小説は37歳の僕が飛行機に乗ってドイツの空港に着陸しようとしているシーンからはじまります。そして、その「現在」のシーンは数ページで終わり、あとは回想シーンになり「現在」には戻りません。数ページで終わるなら最初の現在のシーンは必要ないのではないでしょうか?

これには多分、以下の意味があります。この小説は主人公のいわゆる「地獄巡り」で、また、多くの登場人物が死ぬ話でもありますので、下手をすると主人公が自殺しかねません。このため、「現在」を示すことによってあらかじめ「この主人公は少なくとも『現在』までは死にません」という宣言をしたものだと思われます。

 

さて、飛行機から「ノルウェイの森」のBGMが流れるとその曲は僕を混乱させ、僕は両手で顔を覆います。この描写は一体なんなのでしょうか?このシーンは「なんてセンチメンタルな描写だ」とけっこう批判されたシーンです。

 

私は、似たような経験があります。といってもセンチメンタルな話ではなく、けっこう間抜けな話ですが。

 

数年前の話ですが、私はバスに乗っていて1人でぼーっと立っていました。その時にふと、本当に何の脈絡も無く、その時に「ノルウェイの森」のことを考えていた訳でもなく、もちろん「ノルウェイの森」の曲が流れていた訳でもないのに、ふと「あの時の直子は、ああ考えていたのではなかったのか」ということが思い浮かびました。すると、急に勝手に涙が流れてきました。ちょっと自分でもびっくりです。かなり気持ち悪い光景です。何の脈絡も無くバスの中で、急に涙を流しだす人がいるわけですから。かなりあせりました。ここで「大丈夫ですか?」とか声を掛けてくる人(スチュワーデスは当然いません)がいたら、もう穴があったら入りたい気分です。必死になって涙をこらえながら、「なんだ、こりゃ、やべーよ」と思いつつ、早く目的のバス停に着かないかと必死に祈りました。

 

まあ、というわけで、主人公の状態は「思い出し泣き」あるいは「思い浮かび泣き」です。こう書くと「なんだよ。そんなことかよ。」って話ですが、この状態はちょっと似たような体験がないとおそらく意味がよく分からないかと思います。

 

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