「ノルウェイの森」書評⑫~この小説の結末は?
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* 激しくネタバレしています。ご注意願います。(「スプートニクの恋人」「ダンス・ダンス・ダンス」へのネタバレ言及があります。)
(書評①~僕サーガ序章!?)で書いたとおり、この小説は最後の方で分岐しているのではないかと考えられます。以下の3つのルート(END)が考えられます。
1.単独小説END
「風の歌を聴け」に移行せず、単独の小説として終わるENDです。
分岐のタイミングは、主人公が緑に電話をかけるタイミングです。レイコさんの助言を受けた主人公はレイコさんを見送った後、すぐに緑に電話をかけます。
緑は主人公の告白を受け入れ、主人公と緑は結ばれます。
この結末は、「スプートニクの恋人」が暗示しています。「スプートニクの恋人」は後で検討しますが、「ノルウェイの森」を裏側から見た小説とも解釈できます。主人公が緑の立場になり、すみれが主人公の立場に入れ替わります。そして緑の立場である主人公は、地獄巡りをしているすみれを待ち、すみれが現実世界に戻って電話で主人公に告白してきたのを受け入れます。この「スプートニクの恋人」の結末は、「ノルウェイの森」においても(「単独の小説」として読むならば)緑が主人公の告白を受け入れることを暗示しています。
「ノルウェイの森」が終わった後、「風の歌を聴け」に移行するルートです。このルートでは、主人公はレイコさんの助言を受けたにも関わらず、しばらくグダグダと思い悩んだ後に、緑に電話します。レイコさんを見送るシーンと緑に電話をするシーンの間にしばらく時間が経っているのですね。
この場合、緑が告白を受け入れるタイミングを逃してしまい、緑は主人公の告白を受け入れません。そして、2人は別れることになります。
この結末は「風の歌を聴け」をはじめとする「僕」4部作を読めば分かります。「僕」4部作には、緑は登場しないというか、緑の「み」の字もありません。告白はうまくいかず、主人公のその後の人生に緑が関わることはなかったことを示しています。
3.BAD END
もう1つ、最悪のBAD ENDに向かうルートがあります。このルートでは、主人公はレイコさんの助言を受けたにも関わらず、緑には電話しないまま「風の歌を聴け」に移行します。
では、いつ主人公は緑に電話しているのか。それは、「現在」です。「現在」の主人公がハンブルクの空港の電話ボックスからかけています。当時(といっても1987年ですが)の国際電話ですから、雑音もあり非常に聞き取りにくい電話だったと思います。
17年も会っていない男性から突然電話がかかってきて、雑音がまじり、非常に聞き取りにくい声で告白してくるわけです。緑からしてみると、主人公が死んでしまって「あの世」から告白の電話をかけてきたのではないかと思ったでしょう。かなりホラーな展開です。
おそらく、もうこの時には緑は別の男性と結婚しているでしょう。告白は当然うまくいかず、主人公と緑が結ばれることはありません。
また、「現在」(1987年)において、主人公が緑にこのような電話をしているということは、「ダンス・ダンス・ダンス」の最後で結ばれたはずの恋人とも結局うまくいかず別れたことを示しています。そういった意味でもこのルートは最悪のBAD ENDです。
以上で「ノルウェイの森」の書評を終わります。次回は「風の歌を聴け」の予定です。よろしくお願いします。
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