読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

謎解き 村上春樹(感想・考察・書評)    (ネタバレあり)

村上春樹作品の謎解き(感想・考察・書評)(ネタバレあり)

「風の歌を聴け」余談~「僕」のついた1つの嘘とは?

(目次に戻る)(初めてこのblogに来られた方は、まず目次をご覧ください。) 

(前のページに戻る)

(「風の歌を聴け」書評はこちらです)

 

     激しくネタバレしています。ご注意願います。「羊をめぐる冒険」「ノルウェイの森」への言及があります。

 

風の歌を聴け」文庫版133134ページに以下の記述があります。 

 

「『ねえ、私を愛している?』

 『もちろん。』

『結婚したい?』

『今、すぐに?』

『いつか・・・・・・もっと先によ。』

『もちろん結婚したい。』

『でも私が訊ねるまでそんなこと一言だって言わなかったわ。』

『言い忘れてたんだ。』

『・・・・・・子供は何人欲しい?』

3人。』

『男?女?』

『女が2人に男が1人。』

彼女はコーヒーで口の中のパンを嚥み下してからじっと僕の顔を見た。

『嘘つき!』  

 

と彼女は言った。

しかし彼女は間違っている。僕はひとつしか嘘をつかなかった。」

 

僕のついた「ひとつの嘘」とはなんでしょうか?

 

まず、この彼女は誰でしょうか?去年の秋と書いてあるので、時期的には僕が3番目に寝た彼女ですかね。3番目の彼女だとすると直子が暗示されるような気がしますが、直子がそもそもこのような質問をするとは考えられませんので、この彼女は直子ではありません。

この会話は、どちらかというと特定の彼女との会話を指しているのではなく、やがて主人公を見限り離れていくガールフレンド達に共通する象徴的な会話であるような気がします。

 

キズキが自殺した後の主人公は、「自分の世界」(死は生の対極としてではなく、その一部として存在している「世界」)をつくって、その「自分の世界」に閉じこもって生きています。だから、愛する恋人ができたとしても、その恋人からすると、主人公は自分の殻に閉じこもっているような気がして、愛されている実感が沸きません。((「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」書評②~主人公の孤独)も参照願います。)

このため、この会話で彼女が「嘘つき!」と言っているのは「ねえ、私を愛している?」「もちろん。」の箇所からで、この最初の質問の回答が嘘だと思っているので、後に続く質問の回答も全部嘘だと思っています。

 

 これに対して、主人公は彼なりに彼女のことを愛しています。結婚もしたいと思っています。もっともこれは積極的な意思ではなく、「こんな自分であっても彼女が結婚したいと望んでいるならば結婚したい」程度の消極的な意思ですが。では、何が嘘なのかというと「・・・・・・子供は何人欲しい?」「3人。」の箇所です。主人公は、子供は欲しくありません。

羊をめぐる冒険(上)」(文庫版155156ページ)に以下のように書かれています。

 

「子どもは作らないの?」(ジェイ)(中略)「欲しくないんだ」「そう?」「だって僕みたいな子供が生まれたら、きっとどうしていいかわかんないと思うよ」(後略)

 

(お読みいただきありがとうございます。もし、よろしければ感想などありましたら、コメント欄にコメントしていただけると嬉しいです。)