「ダンス・ダンス・ダンス」書評~② キキ
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なぜ、主人公が自分の半身を異界に置いてきてしまったのか。これは「鼠の葬式」ができなかったからだと思います。前作で鼠とうまく別れを告げることができなかったのです。異界に心残りがあったのです。このため、鼠が死んだ後でも主人公はうまく異界と訣別できず、半身が異界に残されてしまいます。
この状況を解消するには、どうしたら良かったのか。もう一度キキ(巫女)と一緒に異界に行って、「鼠の葬式」をすればよかったのです。
異界の入口は「いるかホテル」にあって、羊男が管理しています。主人公はキキと再会し、キキの導きで異界(「いるかホテル」)に再び行き、「鼠の葬式」を行ってちゃんと鼠と別れて、自分の半身を回収し、キキと結ばれることによって、現実に着地します。そして、主人公は本当の自分を取り戻します。これが本来の現実への着地の仕方でした。
しかし、主人公がうだうだ悩んで「いるかホテル」に行くのが遅れたために、事態は悪化します。
第一は「いるかホテル」の消滅です。高度資本主義の象徴による「システム」の再開発の力に飲み込まれ、古き懐かしき場所である「いるかホテル」は消滅し、現代の「システム」の象徴であるかのような「ドルフィン・ホテル」に変ってしまいます。「いるかホテル」は「過去」の象徴、「ドルフィン・ホテル」は「現在(現代)」の象徴です。
しかし、支配人が「いるかホテル(ドルフィン・ホテル)」の名前を残すことによって、ひっそりと「古き懐かしき場所(16階の異界)」は隠れて残り、かろうじて主人公は過去との接点を保ちます。
第二はキキが殺されたことです。「悪」の復活です。主人公と鼠が前作で葬り去ったはずの「悪」が、主人公が異界に心を残したせいで、復活してしまったのです。「悪」は巫女であり異界への導き手であるキキを殺すことによって、主人公が再び異界にアクセスできないようにします。キキが殺されることで、主人公は過去との接点を失い、自分の半身を取り戻すことは不可能になったはずでした。
しかし、キキは死者となっても巫女としてこの小説の中で何度も主人公を導き続けます。キキの導きがなければ、主人公は最後までたどり着くことができなかったでしょう。
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