謎解き 村上春樹(感想・考察・書評)    (ネタバレあり)

村上春樹作品の謎解き(感想・考察・書評)(ネタバレあり)

「女のいない男たち」感想

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 

 村上春樹『女のいない男たち』所収の表題作「女のいない男たち」を読了しました。

 この小説は書き下ろし作品なので、ちょっと期待していたのですが「うーん」という感じですね。ただ、他の作品の感想は書いてこれだけ書いてないのもちょっと居心地が悪いので、読んで思った疑問とその謎解きについて書いてみます。

 まず、第一の疑問として、エムの夫と名乗る男は何者で、なぜわざわざ「僕」の所に電話をかけてきたのでしょうか?

 第二の疑問として、「僕」とエムは14歳の時に出会ったのか?ということです。「実際にはそうじゃない」と書かれているので、この出会いはフィクションなのでしょうか。しかし、「たぶん(僕にはあくまで想像するしかないのだが)彼女は自分が、中学校の教室で、僕に消しゴムの半分を与えたことを告げたのではないだろうか」とも書いてあり、一体どっちやねん、という感じです。

 この第二の疑問から考えてみますと、おそらくこの小説世界の中では「あったかもしれない可能性の世界」が平行して存在するのでしょう。つまり、「僕」とエムは14歳の時に出会ってはいないAという世界(これが語り手である「僕」の世界です)と、「僕」とエムは14歳の時に出会ったというBという世界があります。Aの世界の「僕」はBの世界の「僕」に嫉妬します。エムの夫と名乗る男が、Aの世界の「僕」が14歳のエムに出会っていると考えたのは別の世界の「僕」と勘違いしたのです。というか、これはAの世界の「僕」のただの想像でしたね。

 第一の疑問に戻ります。この小説世界の中では「あったかもしれない可能性の世界」が平行して存在します。それでは、電話をかけてきたエムの夫と名乗る男は何者なのでしょうか。彼はおそらく「僕」がエムと別れることなくその後彼女と結婚して夫となったという可能性の世界Cの「僕」です。Cの世界の「僕」がAの世界の「僕」に電話をかけて、彼女の自死を告げたのではないでしょうか。

(お読みいただきありがとうございます。もし、よろしければ感想などありましたら、コメント欄にコメントしていただけると嬉しいです。)