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謎解き 村上春樹(感想・考察・書評)    (ネタバレあり)

村上春樹作品の謎解き(感想・考察・書評)(ネタバレあり)

「アフターダーク」書評

 

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*激しくネタバレしています。ご注意願います。

 「ノルウェイの森」「海辺のカフカ」への言及があります。

 

 それでは、「アフターダーク」の書評を始めます。

 この小説はいくつかの大きな謎があり、それを解いていかないと小説の意味はよく分からないかと思われます。正直初めてこの小説を読んだ時の感想は「訳の分からない小説だ」ということでした。今回再読してみて、訳の分からなさは変わりませんが、とりあえず読み解いていきたいと思います。

 以下に、この小説の大きな疑問点を上げていきます。

Q1 高橋は何者か?

 高橋は、この小説の主人公の1人のような感じで登場しますが、その言動はかなり不審です。これについては、後で詳細に見ていきます。

Q2 白川は、この小説の他のパートとどのような関係があるのか?

 ホテル「アルファヴィル」で娼婦に暴力を振るった白川はわかりやすい「悪」です。しかし、この白川は他のパート(マリのパート、エリのパート)と関係がありそうな雰囲気を漂わせながら、実際には彼女らと特に接触することもなくすれ違い続けます。この白川のパートは他のパートとどのような関係があるのでしょうか?

Q3 エリのパートで出てくる「顔のない男」の正体は?

 エリのパート自体が訳の分からない事だらけですが、この中で一番謎の存在が「顔のない男」です。彼がエリをテレビの中の「別の世界」に閉じ込めている張本人だと考えられますので、彼の正体を解き明かす事がこの小説の謎を解く鍵になります。

 また、マリについては以下の疑問が出てきます。
Q4-1 なぜ、マリは高橋と朝御飯を食べなかったのか?
 この小説は、表面的には夜中の街で、男の子(高橋)と女の子(マリ)が出会うボーイ・ミーツ・ガールのストーリーです。しかし、高橋が朝御飯に誘ったり、デートに誘ったりしても、マリは特に関心を示さず断わってしまいます。高橋はかろうじて留学先の住所は教えてもらえますが、将来結ばれるような予感はないまま2人は別れ、意外な程あっさりとした幕切れでこの小説は終わります。結局この2人の出会いとは一体何だったのでしょうか?

Q4-2  なぜ、マリは「自分が取り返しのつかないことをしてしまった」という気がしたのか?
 朝に、眠っているエリの側でマリは涙を流し、唐突に「自分が取り返しのつかないことをしてしまった」という感情を抱きます。この感情は一体何なのでしょうか?

 そして、最後にこの小説の一番大きな謎、エリについての謎が残ります。
Q5-1 エリはなぜ、眠り続けているのか?
Q5-2 エリは目覚めるのか?

 それでは、ひとつひとつ謎を検討していきます。

Q1 高橋は何者か?について見ていきます。
 具体的には、高橋には以下のような多くの不審な点があります。

Q1-1 高橋はなぜ「しかし君のお姉さんは美人だったよな」と過去形で言ったのか?
Q1-2 高橋はなぜ「ハワイの3兄弟」の話をマリにしたのか?
Q1-3 高橋はなぜ「君のお姉さんに僕からよろしくって伝えておいてくれるかな」と言ったのか?
Q1-4 高橋はなぜ、マリをカオルに紹介したのか?
Q1-5  高橋はなぜ、裁判の傍聴のときに「二つの世界を隔てる壁なんてものは、実際には存在しないのかも」と思ったのか?
Q1-6 高橋はなぜ、映画の「ある愛の詩」のあらすじを話したときに嘘をついたのか?
Q1-7 高橋がアルファヴィルに一緒に行った女の子はエリだったのか?
Q1-8 高橋はなぜ「エリに関心がある」と言ったときに「深い」という言葉を省いたのか?
Q1-9 高橋はなぜ、電話の「逃げ切れない」のメッセージを彼個人に直接向けられたものであるように感じたのか?
Q1-10 高橋はなぜ、マリをデートに誘うのか?

 さて、ここでひとつの仮説を考えてみたいと思います。突飛な考えですが、高橋と白川は同一人物だと考えられないでしょうか?そう考えると色々つじつまが合うような気がします。
「何を言ってるんだ。高橋と白川とは外見も年齢も全然違うではないか。同一人物な訳ないだろ。」という意見が確かに常識的かと思いますが、村上春樹の「ファンタジー小説」では、同一人物であっても人格が変わると外見が変わってしまうのかもしれません。このため、この仮説が成り立つか検証してみます。

 しかし、読み進めていくとやはりこの仮説は成り立たないことが分かります。11章(3時42分)にマリと高橋は公園のベンチで会話をしています。12章(3時58分)ではじめ白川はオフィスにいますが、オフィスを出てタクシーに乗り(途中セブンイレブンに寄りますが)哲学堂の自宅に向かいます。しかし、13章(4時9分)でもマリと高橋は引き続き公園で会話しています。白川がオフィスにいる時刻には、高橋はマリと一緒に公園にいたことになります。このため、高橋と白川は同一人物ではあり得ません。「海辺のカフカ」の大島さんが言っているように「いかなる人間も同時にふたつのちがう場所に存在できない」、これは村上春樹の「ファンタジー」世界においても、絶対の法則だと思われます。

 では、「Q2 白川は、この小説の他のパートとどのような関係があるのか?」について検討してみましょう。
 なぜ、はじめに高橋と白川が同一人物であるかの検討をしたかというと、「Q5-1 エリはなぜ、眠り続けているのか?」の解答を探すためです。
 エリのパートを読むと、おそらく「顔のない男」が、真夜中にエリを別の世界に閉じ込めていている人物であろうことが示されています。そして、その別の世界の部屋は、白川が働いているオフィスにそっくりで、会社(veritech)のネームが入った鉛筆が落ちています。この描写から「顔のない男」が白川の可能性が高いという仮定ができます。

 しかし、白川とエリの接点は少なくともこの小説の中ではありません。接点のない白川が、なぜ「顔のない男」になってエリを「別の世界」に閉じ込める必要があるのでしょうか?この「いかにもありそうな」仮定は見直す必要があります。そもそも「別の世界」が白川のオフィスそっくりで、会社のネームが書かれた鉛筆が置いてあるなど、あからさま過ぎで伏線にもなっていません。せっかく「顔のない男」にして正体がわからないようにしている意味が無いではありませんか。「別の世界」の描写は「顔のない男」は白川だと誤解させるための作者の罠だと思われます。

 では「顔のない男」の謎を解いていきます。
Q3 エリのパートで出てくる「顔のない男」の正体は?
A3 これはエリと接点のある「男」だということになります。小説の中でエリと接点のある男は1人だけです。それはもちろん高橋です。(高橋の不審な点については後述します。)

 もちろん、veritech、オフィスの描写や男の外見等を重視して「顔のない男」はやはり白川なのだ、という意見もあるかと思いますし、それを完全に否定する根拠もありません。しかし、白川=「顔のない男」説だと、白川とエリの接点の描写が小説の中には(ほのめかしや暗示を含め)全くない以上、その接点については「創作」しないと話が繋がりません。このブログの「謎解き」の際には、小説中の描写から読み解けるものは読み解き、できる限り「創作」はしないことを一応ルール(いやパロディ小説とか書いててどこがルールだと突っ込まれそうですが(笑))としていますので、ここでは高橋とエリの接点や話全体の繋がりを重視し、「顔のない男」=高橋説を取ることとします。


「顔のない男」=高橋という事になると、Q2の解答は以下のとおりになります。
Q2 白川は、この小説の他のパートとどのような関係があるのか?
A2 
 ① 「顔のない男」を白川だと誤解させるための罠。
 ② 高橋には、白川のような別の(悪の)側面があることを暗示している。
 ③ 「アルファヴィル」という場所は、「暴力」や「悪」を噴出させる特別な意味のある場所であることを示している。

 白川は、高橋には別の側面があることを暗示するために登場しています。わかりやすい「悪」である白川は、実際にはマリにもエリにも関わることも接触することなく小説は終わります。これだけでは、なぜ白川が登場したのか意味が不明です。エリとマリに接触したのは高橋です。そして、エリは「顔のない男」によって、別の世界に閉じ込められ損なわれています。そして「顔のない男」は、この小説で唯一エリと接点のある男である高橋なのです。そうでなければ、この小説の別々のパート(マリのパート、エリのパート)の話が繋がりません。

 白川は高橋の別の側面であることを暗示しているのだと考えると、この「わけのわからない」小説を解くひとつの道筋が見えてきます。私は初読の時、先程検討したように「高橋と白川は同一人物の別々の人格を表しているのではないか?」との印象を抱きました。実際には彼らが同一人物であることはあり得ませんでしたが、白川の描写を通じて、この小説には書かれていない高橋の別の側面がある事を想像する事ができます。

 では、「Q1 高橋は何者か?」に戻ります。
Q1-1 高橋はなぜ「しかし君のお姉さんは美人だったよな」と過去形で言ったのか?
A1-1 高橋は、エリが「別の世界」に閉じ込められており、こちら側の世界にはいない(眠っている)ことを知っていたのだと思われます。彼自身が「顔のない男」である以上当然です。このため、つい過去形で話をしてしまったのです。

Q1-2 高橋はなぜ「ハワイの3兄弟」の話をしたのか?
A1-2 「本当に何かを知りたいと思ったら、人はそれに応じた対価をはらわなくてはならないということ」を言いたかったのだと思います。そして、自分は1番上の兄のような人間であることを言いたかったのでしょう。彼は「知的好奇心」のためには何をしてでも、大きな対価を払ってでも行動しようとする人間なのです。

Q1-3 高橋はなぜ「君のお姉さんに僕からよろしくって伝えておいてくれるかな」と言ったのか?
A1-3 高橋はいろいろ言っていますが、つまりは彼女が眠っていて直接話すことなどできないことを既に知っているからでしょう。

Q1-4 高橋はなぜ、マリをカオルに紹介したのか?
A1-4 マリと接点を保つためと、「アルファヴィル」にマリを関連づけるためだと思われます。「アルファヴィル」はA2で触れたようにこの小説では特別な場所です。高橋はマリに「知的好奇心」を抱き、再び接点を作りたいと思っています。

Q1-5  高橋はなぜ、裁判の傍聴のときに「二つの世界を隔てる壁なんてものは、実際には存在しないのかも」と思ったのか?
A1-5 これは、高橋自身に別の「悪」の側面が存在しているからです。彼が自分の別の側面を意識あるいは記憶しているのか、していないのか、この小説の描写ではわかりにくいですが、白川が自分が暴力を振るったことを自覚している描写や、A1-2、A1-3の通りエリが別の世界に閉じ込められていることを高橋がおそらく知っている描写から、自分の別の側面の行動は記憶し、意識しているものと考えられます。

Q1-6 高橋はなぜ、映画の「ある愛の詩」のあらすじを話したときに嘘をついたのか?
A1-6 高橋は、映画の「ある愛の詩」のあらすじを語るとき大きな嘘をついています。(この映画のあらすじはネットでいくつも出ていますので、映画を見ていない方であらすじを知りたい方はネタバレ自己責任で探してみてください。)高橋は「最後の方はよく見なかったんだ」とごまかしていますが、最後の方を見ていなくても分かる明らかな嘘です。なぜ、高橋はこんな嘘をついたのでしょうか?

 これは、どちらかというと読者に向けた「高橋は嘘つきだ」という作者からのヒントなのだと思われます。一見、高橋は無害そうな性格に見えるように描写されていますが、実際にはこの人物には隠された別の「良くない」人格があるよということを、このエピソードで暗示しているのです。

Q1-7 高橋がアルファヴィルに一緒に行った女の子はエリだったのか?
A1-7 エリです。これは、高橋がマリに、アルファヴィルに一緒に行った相手の女の子はエリではないかと聞かれた時の態度でわかります。「高橋は驚いて顔を上げ、マリの顔を見る。小さな池の水面に広がっていく波紋を見るように。」また、高橋と一緒にアルファヴィルに行ったのがエリではないとしたら、この小説のそれぞれのエピソードは何の繋がりもないバラバラの話だということになってしまい、本当に意味不明の話になってしまいます。

 A1-4、A2でも書きましたが、ラブホテルである「アルファヴィル」は真夜中に悪と性欲と暴力を噴出させる磁場のようなはたらきをしています。普段は普通のサラリーマンである白川は、このホテルで娼婦に暴力をふるいます。そして、高橋はおそらくアルファヴィルでエリを決定的に損ねます。

 アルファヴィルで起こったことがきっかけでエリは、別の世界に閉じ込められ眠り続けます。高橋がどのようにしてエリを決定的に損ねたのか、具体的な描写が書かれていないので不明ですが、白川のように肉体的に暴力を振るったという事ではないと思います。おそらく彼がエリに対する好意や愛情ではなく「知的好奇心」でエリとセックスしたこと自体が、結果的に彼女を精神的に決定的に損ねたのではないかと思われます。(「アルファヴィルでは、『セックス』はあるが『情愛』と『アイロニー』はない」)

 高橋はエリからホテルに誘われた時、エリの精神が既に危うい状態にあり、おそらく彼女とセックスをすることで彼女の精神は更に決定的に損なわれるであろうことを知っていました。なぜ、エリが損なわれるであろうことを知りつつ、高橋はエリを損ねずにはいられなかったのか?それは彼の「知的好奇心」です。エリのような美しい女性とセックスするという体験をしてみたい「好奇心」は、そのことで彼女が損なわれるとしても、高橋としてはやらずにはいられなかったわけです。もちろん、そこには「性欲」も含まれているでしょうが、彼の言う「知的好奇心」は、それよりももっと強い「欲望」を示しているのだと思われます。

Q1-8 高橋はなぜ、「エリに関心がある」と言ったときに「深い」という言葉を省いたのか?
A1-8 おそらく、高橋はエリに対して以前は「深い」関心(知的好奇心)があったのですが、彼女とセックスをして、その結果彼女を別の世界に閉じ込めることで、彼の「知的好奇心」の目的は達成され、以前ほどの深い関心がなくなってしまったのだと考えられます。そして、新たな標的(マリ)が現れたので、そちらに関心が移っています。

Q1-9 高橋はなぜ、電話の「逃げ切れない」のメッセージを彼個人に直接向けられたものであるように感じたのか?
A1-9 A1-5でも述べたように、高橋は自分に別の「悪」の側面があり、そのことを自覚しています。自分のこの「悪」の側面はいつか誰かに裁かれることになり、自分は「逃げ切れない」ことになるのではないかと、彼は予感しています。

Q1-10 高橋はなぜ、マリをデートに誘うのか?
A1-10 高橋の別の側面である人格がマリに「知的好奇心」を抱き、マリを次の標的にしようと思ったからです。

 次に、マリについての謎を解いていきます。
Q4-1 なぜ、マリは高橋と朝御飯を食べなかったのか?
A4-1 Q1-1~10で見てきたように、一見高橋は善良で無害そうな青年として登場しますが、細かく見ていくと不審な言動が多すぎます。マリも具体的にどうとははっきり言えないが、高橋という人間にちょっと疑問を感じているのだと思います。このため、高橋が朝御飯に誘っても断るなど距離をとろうとしています。

 また、高橋は以前はエリに対して「深い」関心を持っていたはず(ダブルデートのときもそれは明らかだったのでしょう)なのに、なぜか関心を失ってしまい、妹の自分に関心を急に向けることをマリは不思議に思ったのだと思われます。特にエリが眠り続けているという異常な状況を告白した後にも関わらず、高橋はエリの話を聞こうとはしていますが、その後もエリよりはマリに関心を示しているように振る舞っています。もし、彼が本当に「良い人間」であるならば、眠り続けているエリをどう助けようかと、まずそれを考え、マリに話すはずです。ところが、彼が言ったことはマリをデートに誘うことでした。かなりズレています。こうした高橋の言動により、マリは彼女自身も自覚しないままに高橋に対する警戒感を抱いたのだと考えます。

Q4-2  なぜ、マリは「自分が取り返しのつかないことをしてしまった」という気がしたのか?
A4-2  高橋に留学先の住所を聞かれ、マリは住所を書いてしまいます。これによって、一旦切れかけた高橋との接点が復活してしまい、彼らが再び出会い、高橋によってマリが損なわれる可能性ができてしまいました。「僕はこれでけっこう気が長いんだ」
 マリは、自分自身が自覚しないままに自分を危険な状況に置いてしまった予感がして、なにか「自分が取り返しのつかないことをしてしまった」と感じたのです。

 最後に、エリについての謎を見ていきます。
Q5-1 エリはなぜ、眠り続けているのか?
 エリはかなり前から、問題を抱えていました。マリが話したエレベーターに閉じ込められた事件から、彼女はマリを守るために強くならなければならないと決心しました。しかし、そのことは過剰に強い架空の自分を作ることを自らに課し、その「作られた自分」と本当は弱い自分との乖離は広がり彼女を病ませることになります。

 そうした時に、偶然エリは高橋と再会し、彼女は話を一方的に話した後、衝動的に高橋をホテルへ誘います。しかし「アルファヴィル」で彼が行ったことは、エリを癒すことではなく、その歪みを増幅させ彼女を損ねることでした。そして、高橋は自分の行為によって彼女を損ねてしまったということを自覚しています。彼は本当は彼女と寝るべきではなかったのです。高橋がエリにした行為は、自分自身で気が付いていなかった「悪」の側面が自分にも存在することを彼に自覚させます。

 これは、なんとなく「ノルウェイの森」のテーマのひとつ(「主人公は直子と寝るべきではなかった(そのことをきっかけに彼女は損なわれたのだから)」「しかし、結局そういう状況に置かれたら、主人公は必ず直子と寝るだろうし、それは避けようのない事だったのだ」)を再び問い直しているのかな、という気もします。自覚的にせよ、無自覚にせよ、人間というのは自分がどんなに善良な人間だと思っていても、自分の行動の結果、他人を傷付けて損ねてしまう場合がある、そうした「悪」の側面を誰しも持っているという事がこの小説のテーマの1つなのかもしれません。

 しかし、「ノルウェイの森」の場合は主人公は直子を愛していますが、高橋はエリを愛していません。そこは大きな違いです。そして、高橋はそうした自分の「悪」の側面から、結局目をそらしているように見えます。もうエリを救うために自分にできることはない(むしろ彼女を決定的に損ねたのは自分だ)と思い、エリへの関心を失って、その代わりに妹のマリに興味を示している描写を見ると、やはり高橋は本質的に「良くない」人間なのだと言わざるをえないでしょう。

Q5-2 エリは目覚めるのか?
 この小説の最後の方の「しかしやがて、エリの小さな唇が、何かに反応したように微かに動く。(中略)今の震えは、来るべき何かのささやかな胎動であるのかもしれない。」という描写はエリがやがて目覚めるであろうことを予兆しています。

 なぜ、エリは目覚めるのか?彼女は、高橋に損なわれることによって、別の世界に閉じ込められます。しかし、現実の世界で「作られた自分」を演じ続けることに疲れた彼女の無意識は、自分が損なわれ別の世界に閉じ込められる事を密かに望んでいました。彼女が別の世界に閉じ込められ眠り続けているのは、彼女にもそれを望む心が一部にあったからです。
 
 しかし、エリは目覚めようとします。マリが涙を流して眠っているエリに口づけをしたとき、エリは、マリが高橋の「知的好奇心」の標的になり、狙われていていることを感じます。エリは、高橋によってマリが損なわれてしまうかもしれない危機が迫っていることを予感しました。エリは、マリを守るために目覚めなければいけないと強く決意したのです。

 

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